肥満とリンパ浮腫
第14回 ツキイチコラム

光生病院リンパ浮腫治療センター 形成外科 越宗 靖二郎


皆様 こんにちは
今年の冬は例年になく寒く、なかなか外に出づらい日が続いたのではないでしょうか。少し運動不足になっていないですか?

今月のコラムは2017年の光生病院リンパ浮腫セミナーでも講演させていただきました『肥満とリンパ浮腫』について書いていこうと思います。講演を聞いておられない方もおられるかもしれませんので、繰り返しにはなりますがお付き合いください。

まず、肥満て?どこからが肥満?と疑問に思うかもしれません。WHO基準でBMI:30以上、日本でBMI:25以上の人を「肥満」と呼びます。BMIは体重を身長の二乗で割ったものです。日本の肥満の割合は、男性が3人に1人、女性が5人に1人になっており、多くの人が関係する問題です。
実は、この『肥満』はすでにリンパ浮腫のリスクファクターと言われ、データも出ています。ただ、このリスクファクターというのは、ガンで切除術+リンパ節郭清を受けるときに『肥満』の状態であった場合、術後にリンパ浮腫になる割合が高くなると言われているということです。逆に、リンパ浮腫の患者様が経過で『肥満』になる(体重増加)とリンパ浮腫が増悪するかどうかはまだ未解明です(しかし、一般的には悪くなりそうですよね・・)。
このリンパ浮腫と肥満の関係を少しでもイメージしやすくできればと思って、今回、このお話につながりました。

では、本題です。
食べたものが貯まっていき太ってしまうということはみなさんご存知かと思います。食べることも貯めることも生命活動を維持するためには必要なことです。しかし、摂取と消費のバランスが崩れてしまうと太ってしまうということです。
それを、摂取した余分なエネルギーは、そのほとんどが中性脂肪に変換されます。その中性脂肪を脂肪細胞が取り込み肥大化します。

脂肪細胞は肥大するだけでなく、分裂することも最近の研究でわかってきました。そうすることで、脂肪組織のかさが増し、肥満になってしまうわけです。そして、ついには細胞が太り過ぎて、色々な物質を出しながら、死んでしまいます(図1)。

図1
図1

これらの物質を【アディポカイン】と言います。これらには善玉と悪玉があり、バランスが崩れていくと、いわゆる生活習慣病と言われる状態につながります。生活習慣病とは脳梗塞や心筋梗塞、腎臓病などですが、すべて血管障害に起因してきます。リンパ浮腫の患者様にも同様にそのことが起こり、さらには、リンパ管にも障害をきたすことがわかってきました(図2)。

図2
図2

図2のように色々なアディポカインのバランスが崩れるため、障害がおきてきます。その中でレプチンという物質や炎症性サイトカインがリンパ管の障害の原因と言われています。図3は実際にヒトから採取してきたリンパ管にレプチンを高濃度で添加したものと無添加のものを比較した写真です。図3のB、Cではレプチン暴露により管が太く狭く不整なっているのがわかります。
血管のようにリンパ管も閉塞していくイメージですね。。。

図3
図3

リンパ管の障害を予防するには、もちろんリンパ浮腫の状態を悪くさせないということが一番大事だと思います。日頃からの圧迫療法やドレナージが重要です。
それに加えて肥満を少しでも改善できると、悪玉が減ってリンパ管にとって良い環境になると考えられます。
図4は現在の肥満に対する治療・予防法です。

図4
図4

当たり前じゃないかと思われと思います。しかし、重要なのです。意味があるのです。話が少し変わりますが脂肪細胞は白色脂肪細胞と褐色脂肪細胞の2種類が存在しています。
実は白から褐色の間の『ベージュ細胞』と呼ばれるものも存在しています(図5)。

図5
図5

このベージュ細胞と褐色細胞は脂肪燃焼作用が高く、痩せていくために重要なのです!脂肪を燃焼させてエネルギー消費を促すベージュ細胞を増やす因子として、肝臓からの因子筋肉からの因子がわかっています。肝臓からは空腹時に放出され、筋肉からは運動により筋組織から放出されてきます。

もうおわかりですよね。
・食事をしっかりとメリハリと摂る
・出来る範囲でしっかり運動する
漠然と運動や食事と言われるとピンときませんが、上記のようにこれらには痩せるための意味があるのですね。

ここでは、リンパ浮腫の専門的な治療ではなく、肥満との関係からリンパ浮腫について書いてみました。肥満に対してしっかり運動することはやはり意味があり重要なことです。食事も年齢ごとに考えて摂取することも重要です。

今まで運動が続かなかった方や食事制限が難しかった方も、このお話を頭の片隅に覚えておいて頂いて、普段の治療のモチベーションの一つになれば幸いです。

(2018.3.9 越宗)

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